坂本善三美術館　柚木沙弥郎展によせて

小国町の坂本善三美術館から作品展のお話があり、今年の五月始めて美術館をお訪ねした時、私はこの美術館以外に今の私の作品を陳列するのにこれ以上恵まれた空間はないと思いました｡どんな美術館も多くの場合、建物と陳列物は夫々別々の性格のものでとてもよい関係というわけには行っていないようです。勿論作品が見易いように工夫されている近代的な装置は整っているでせう。
　しかし私がここで言いたいのは先ずこれ以上は望めないような美しい自然の中に建てられていること、次に建物が古い民家を主体としてそれに調和するように設計された新館、いずれも木造で床が畳敷きであること等、我々日本人にとって極めて自然に寛げる美術館であることです｡
　次にこの度の私の作品が染め布であることです｡先ず玄関ののれんを始めとして布は必要に応じてよけることも拡げることもできます。人体を包むことも、ものを覆い隠すこともできます。そんなフレキシブルな性格を本来具えている布はこの美術館に調和し、建物全体が一体の工芸品となって人々を受け容れているように思えるのです。
　私はできるだけ多くの方々にこの快適な空間をもつ催しを経験して頂きたく思います｡

　2002.11.2
柚木沙弥郎