10月18日〜21日盛岡光原社（tel:0196-22-9894)開催の板絵展の準備が今大詰めを迎えているところです｡
板は絵を描くのに丈夫だし、何度も塗り直しが効くし、僕にはぴったりの材料です｡昔小学生の頃、お習字の時間に毛筆で何度も塗り直したり一度書いたあとから書き足したりすると「ちょうちん屋」と言ってよくないことになっていました。それは字の勢いがなくなるからというのです。僕はその頃町で見かける八百屋や魚屋の看板、赤ちょうちんの文字、駅舎の駅名の文字、そば屋ののれん等、家の床の間にかかる掛け物の文字よりずっと面白く感じていました。
今考えてみるとさうした文字や絵は勿論品の悪いものは別として、何度も筆でなぞって、或いは輪郭の中を塗りつぶすようにして、要するに納まるところに納まるようにして作った大げさに言うならば定着した永久不変を目指す（一過性でない）仕事ではなかったのではないかと思うのです｡近所の近年廃業した八百屋のブリキの看板にペンキの｢ちょうちん屋」が現れているのを見て、そんなことを思い出しました｡
僕の今やっている板絵は今はもうなくなってしまった看板の一種で、皆の気持が安心の方向に向かう指標になればという、ひそかな願いがあるのです。

2002.9.1
柚木沙弥郎