MEXICO グァナファト・2 グァナファトを訪ねている間に雨乞いの祭りがあった。 案内役のNさんは僕たちををここで開かれる市長主催のパーティに連れてゆくつもりなのだ。Nさんは日本から40年の前にやってきてグァナファトに住みつき、空手や禅を土地の人に教えている。警察署長を始め彼の教え子が沢山いて、彼はここでは名士であるらしい。公園の一角にテントがあって白い布を掛けた机が用意され、その周囲には生真面目な顔をした婦人警官が見張りの立番をしていて何だかものものしい。 定刻の二時を過ぎてもテントに人が集まる様子もなく待ちくたびれた頃、いつの間にか満席になって次々にご馳走や酒が出ていた。サラダ、ラムのステーキ、ギョーザのようなトルティーヤ、煮豆など。飲み物は例のテキーラとオリオンという銘柄の土地のビール。僕はアルコールがダメなので、連れのAさんや案内のNさんがコップの縁に塗りつけた岩塩をなめなめテキーラをうまそうにすするのを眺めるばかりで、実に勿体ない。 ここのパーティはいつもかうなのだそうだが受けつけもなければスピーチもない。ただやたらに挨拶して廻ったり紹介してくれるからぼんやりしていられない。周囲の人たちは男はネクタイの人が多く、テントの外の人たちとは全く違う人たちである。Nさんが市長や警察署長やアメリカ車の支店長とかに僕たちを引き合わす。その度に偉大なるアーチストととか美術教育のオーソリティとか言っているのでNさんの大きな声と先方の大きな手に反比例してこちらの声が小さくなってしまった。 僕がスケッチを始めると僕の耳のうしろに人の吐く息を感じるので、ふり返ると10才くらいの男の子が僕の絵をのぞき込んでいるのだった。間の悪さうな少しはにかんだ表情をしていて可愛く思った。僕は早速その子を描くことにした。二人とも無言である。目が合う時だけ始めに出遭った時と同じ表情をする。僕もわざと何も話しかけないことにする。僕は東京から持ってきた眠けざましのチューインガムを思いだして、それを男の子に進呈した。少年はまた例の表情をしたきり、チューインガムの包みをそのままいじくっている。 絵を描き終って男の子に見せるとやっぱりまた間の悪さうな顔をした。男の子はお祭に来ていながら祭にもテントにも興味がないみたいである。僕がスケッチブックをしまうと男の子はどこかに行ってしまった。
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